Cyrus
サイラス 【ますます栄えるHealdsburg】 画像をクリックして、ご覧下さい。
サンフランシスコから北へ車で約1時間半、ソノマ・カウンティのAVA(政府公認ぶどう栽培地区)で言うと、
アレキサンダー・ヴァレー、ドライ・クリーク、ロシャン・リヴァーが隣接しあう地域の中心となる街が、
ヒールズバーグです。
ヒールズバーグの街自体は、プラザ(四角い広場)を中心に、ほんの3〜4ブロック四方という
こじんまりサイズですが、そこに集まるお店は、どれも個性的で豊か。
一体誰が買うのだろう?と思うような高級品を取り扱う店が、つぶれることなく淡々と商売を続けています。
ナパ・ヴァレーが山向こうにありますし、サンフランシスコという一大都市が南に控えているので、洒落た感じの街ではありましたが、
「食」に関しては今ひとつパっとしない地域なのでした。
ところが、やはり、質の高いワインの生産地のお膝元でありながら、食の文化が乏しいのは寂しいということからでしょうか、
ここ数年の間に、しっかりしたレストランが登場し始めました。
今回ご紹介するのは、2005年初春に、ここヒールズバーグにオープンした「サイラス」です。
【この方々が開いたお店なら・・】
新しいレストランができると、その店の背後に誰が絡んでいるのかを知りたくなります。
その点、「サイラス」は誰もが納得、訪れてみたくなるスタッフが勢揃い。
まず、メートル・ディーはNick Peyton氏。
ベイエリアのレストラン業界において、この方の名前を知らなかったら、ちょっと悲しい。
リッツ・カールトン・ホテルのダイニング・ルームで、一躍トップ・メートル・ディーの名声を得たあと、
「Gary Danko」のパートナーとして、当店をサンフランシスコの一流レストランにし、2003年冬には、
ナパ・ヴァレーのセント・ヘレナに「Market」というカジュアル・レストランをオープンさせています。
エグゼクティブ・シェフは、上記「Market」を、ニック・ペイトン氏とパートナーシップを組んで開いた Douglas Keane氏。
サンフランシスコの有名レストラン「Jardiniere」で働いていた頃、地元紙「サンフランシスコ・クロニクル」によって
「2002年クロニクル・ライジング・スター・シェフ」(将来有望新人シェフ)に選ばれたキーン氏。
それから3年、今やベイエリアの人気・有名シェフを挙げたら、絶対その中に入ってくるぐらいの実力をつけて
こられました。
そしてソムリエは、ニック・ペイトン氏がおられた時代の「Gary Danko」でソムリエ修行を積んだ
Jason Alexander氏。
まだまだ若い男性ですが、この人がまた、とってもキュート。
【ウエイティングも楽し、程よいサイズ】
「サイラス」は、これも新しく開業した「Les
Mars Hotel」の一角にあります。
ワイン・カントリーの宿は、どこも素晴らしくお値段が張るのですが、当ホテルも例外ではなく、たった16室しか
ありませんが、シーズンですと最低で1泊400ドルはします。
エントランスは小さく、入ってすぐはバー・ラウンジ。バーカウンターと、入り口近くのソファ・エリアだけで、
約20名ほど収容可能。
「ゲーリー・ダンコ」のバーが、ほんの8名ほどしか座れず、時間によっては立ちんぼうで着席を待たなければ
いけないのと比べると、充分なスペースです。
私達は、土曜日のディナーに訪れましたが、午後7時の段階で、このバー・ラウンジは満杯状態。
バー・カウンターで、名前が呼ばれるのを待ちます。
バー・エリアを通り越して、その奥にダイニング・ルームが広がります。
天井は、6つのドームで覆われていて、どこか古いシャトー・ワイナリーのカーヴに入ったかのよう。
全65席ほどのスペースは、小さからず大きからず。
丁度、8名くらいのグループが一箇所におられたせいか、ドーム型天井の下、人の声がワンワン響いて、
クラシックな雰囲気は一転、カジュアルなビストロの趣き。
(しばらくして、その一団が去ると、ぐんと静かになりました)
【「シェフ、XXパーティが到着されました。テーブルXX番です。」】
ダイニング・ルームに案内されると、まず案内係りの女性が内線電話を取り、「シェフ、コバヤシ・パーティが入られます。
テーブル・ナンバーXXです。」と通達。
一体、この伝言が何のためにあるのか、ちょっとしたデモンストレーションなのかなあと思いつつ、テーブルに着きますと、
間髪入れずに登場したのが「キャビア」トレイです。
アイス・バケットに入った4本のシャンペン・
ボトル、そして赤い天秤計りとキャビアを乗せたトレイが、
テーブルの横につけられます。
予算が無尽蔵にあれば、アペタイザーに上質キャビアをひとすくい・・といきたいところですが、宝くじにも当たった
ことのない私達は、せいぜい、「あら素敵」と写真を撮らせてもらうのが関の山。ああ、悲し。
そのトレイが去ると、すぐさま、テーブル担当のサーヴァーさんが来られます。
ちょっと早めに着いてしまい、バー・カウンターでメニューをじっくり勉強し終えていた私達は、質問することもせず、
これとこれとあれ、と注文。
【組み立てコース・メニュー】
メニューは、「ゲーリー・ダンコ」スタイルで、
●野菜 ●ロブスター ●魚・甲殻類
●リゾット ●フォアグラ ●家禽類 ●肉 ●チーズ ●デザート
と区分けされた中から、好きなように
3・4・5コースを組み立てます。
(この区分は、季節によって変わる可能性あり)
3コース・58ドル、4コース・69ドル、
5コース・80ドル。
そして、シェフのテイスティング・メニューは、7コースで95ドル。
この日、同行の主人は4コース、私はデザートを二人でシェアすることにして5コースを選択。
こういうレストランには当たり前のこととなっていますが、注文したものが出てくる前に、amuse boucheが2種類くらいサーヴされます。
主人の選んだ4コース:
●Tasting of Fall Vegetables
●Snapper with spiced Crab, Coriander-Lime
Broth
●Truffled Red Wine Risotto, Parmesan Broth
●Fillet of Beef Tenderloin, Chanterelles,
Haricot Vert and Gnocchi
私が選んだ5コース:
●Maple Glazed Endive, Crispy Chard Cake and
Mascarpone Creamed Spinach
●Lobster, Chanterelle and Fava Bean Ravioli,
Mussel-Saffron Sauce
●Seared Foie Gras, Warm Ginger Bread, Asian
pears and Mulled Cider
●Lamb Loin with Snow Cap Beans, Marquez
Sausage and Tomato Confit
●Caramel Soup with Kettle Corn, Sorbet &
Chocolate Filigree
★Tasting
of Fall Vegetables★
店内の暗さで、写真がこんな風になってしまい残念ですが、見た目がキュート。
右上写真、一番奥にあるのが、キノコ類を揚げたものなのですが、その香ばしさにタメ息。
★アンディーヴ、チャード、ほうれん草★
アンディーヴ(日本では「チコリ」と呼ばれているかもしれません)は、好きな野菜ですが、
大抵、一枚一枚剥いでサラダにするか、粗くチョップしてしまうかなのですが、
このように丸ごとグレーズしてしまうのもアリなのだなあと感動。
メイプルでグレーズされたアンディーヴは口の中でとろけ、しっかりした歯ごたえのチャードを揚げたものは
サクサク、そして、マスカルポーン・チーズで和えられたほうれん草は滑らか。
ヴィオニエと実に良く合っておりました。
★ロブスターのラビオリ★
シャンテレール・マッシュルームとそら豆、そしてロブスターの身が詰められたラビオリ。
かけられたソースは、ムール貝とサフロン風味。海と山の恵みたっぷり、贅沢な一品。
今、トレンドであろう「プシュー泡」で飾られていますが、この泡は食べ物の温度を下げてしまいがちで、
個人的には少々辟易気味。こういうことしなくても、充分に素晴らしく美味しいのに。
★フォアグラと梨★
美しく焼かれたフォアグラが、温かいジンジャー・ブレッドの上に乗せられ、表面に梨の小さなスライス、
イタリアン・パセリの揚げたものを散らばせ、マルドされたサイダーが注がれています。
フォアグラには、ソーテルヌのような甘いワインが合いますが、温かくして甘みを出したサイダーを
合わせるというのが、これほど素敵になるものかということに驚き。
★ケトル・コーンとカラメル・スープ★
事前にウエブサイトでメニューを確認していた時から、これは絶対注文するゾ!と
決めていたデザートです。
とても斬新なアイデアの一品。
真ん中にシャーベット、それにポップ・コーンがふりかけられ、全体をチョコレートの「網」が覆っています。
これに、ウエイターさんがアツアツのカラメル・スープを注ぐのです。
すると、チョコレートの網がトロ〜っと溶けて、全部が合体!
こういうワクワク感のあるデザートは大好きです。
どれだけ甘いものかと覚悟していましたが、脳天突き刺す甘さなどではまったくなく、
お腹いっぱいなのにパクパク、きれいに完食してしまいました。
子供の頃に帰ったような懐かしさで、胸がいっぱいになりました。
【ワインも申し分なし】
ソムリエ、ジェイソン・アレキサンダー氏編纂のワイン・リストは、読み物としても申し分のないもの。
予約時間より早めに来た甲斐があったと申しますか、それを眺めているだけで、数十分は優に時間つぶしができます。
まずハーフ・ボトルの品揃えが素晴らしい。約60種類もあります。
そして、バイ・ザ・グラスも約25種類。
世界各国のワインが、シェフの創り出すディッシュに合わせて揃えられてありますが、ソノマ・カウンティのレストランと
いうだけあって、近隣地区のワインが特に、セレクション良く採用されています。
ロシアン・リヴァー・ヴァレー、ドライ・クリーク・ヴァレー、アレキサンダー・ヴァレー、ロックパイル、ナイツ・ヴァレー、ソノマ・コースト、
グリーン・ヴァレー、ソノマ・ヴァレー、ソノマ・マウンテン、ソノマ・カウンティ、と、
AVA別に、ワインがリストアップされており、これを読むだけで、このあたりの気候・土壌・風味の特性をよ〜〜く理解することができます。
素晴らしい。
ウエイティング・バーで何か食前酒を、と思いましたが、ワインを思う存分飲みたい気分でしたので、
バー・カウンターでワイン・リストを頂き、すぐさまボトルで注文。
それを、引き続きダイニング・テーブルでも楽しみました。
2004年ヴィンテージで、ソノマ・コーストのシャルドネを造った私のワイン「モ・ナミ」、2005年今年のヴィンテージは、
ロシアン・リヴァーのヴィオニエを手がけています。
ワイン・リストを見ますと、同じヴィンヤード「Catie's Corner」のヴィオニエ、しかも、どこかで早いうちに飲んで
みたいとずっと思っていたWhetstoneのものがあり、即座にそれを注文しました。
ジェイミー・ウエットストーンの造ったケーティーズ・コーナーのヴィオニエは、フルーツ風味たっぷりの芳しい
アロマを持ちながら、味わい・酸味はあくまでも優しく、フレッシュ。
とっても素敵でしたので、「今夜はウエットストーン・デーにしよう」と決め、2本目の赤も、彼のワインにしました。
Hirsch Vineyardのピノ・ノワールが、2002年・2003年の2ヴィンテージで出ていましたので、
ソムリエのジェイソンにお聞きしたところ、2003年はまだちょっとタイトで、2002年ものが良い感じになって
きているとのこと。 それでは、と、2002年を注文。
あああああ、もう、こういう時こそ「幸せ」というのね、と、顔中口だらけになっているのではないかと思うくらい、
うふふふふふと笑みが広がります。
いやはや、この個性的なしっかりした、エレガントなピノ・ノワールは、甘いサイダー・ソースのフォアグラにも、
深い味わいのラムにも、ぴったりとマッチ。
二人でフルボトル2本は飲みきれませんでしたので、2本ともお持ち帰りしましたが、待ちに待ったお年玉を手にした子供のように、
翌日もボトルを両手で抱いて、大事に大事に飲みました。
ちゃんと各テーブルを回ってこられるメートルディーのニック・ペイトン氏、我々のテーブル用に置かれた2本のワインを見て、
「ありがとう!ウエットストーンのワインは私もとても気に入っているので、嬉しいですよ。」と、
さすが、天下のメートルディー、リップサービスも抜かりありませんでした。
デザート・ワインも欲しいと欲張りっぱなしの私は、ソムリエ・ジェイソンにお伺いをたてました。
「デザートは何を注文されました?」と聞かれ、ケトル・コーンのアレと答えましたら、「そのデザートはとても甘いので、
何を飲んでも負けてしまうのです。エスプレッソが一番じゃないかな?」とのお答え。
こういう正直さも、とってもキュートではありませんか。
素直な生徒の私は、ダブル・エスプレッソで、その夜のディナーを終えたのでした。
2005年もあと少しで終わりますが、「サイラス」は、断トツで、今年ナンバー・ワンのレストランとなりました。
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