O'Shaughnessy Estate Winery
オショーネシー・エステート・ワイナリー 【ハウエル・マウンテンの真っ只中】
29号線と平行して南北に走る「シルベラード・トレイル」は、南端から北端まで、信号がひとつもありません。
唯一、セントヘレナ付近に点滅信号があり、その交差点を東に入っていくと、ハウエル・マウンテン地区となります。
主要道路から離れ、ぐるぐる山の中を入っていきますと、今回ご紹介する「オショーネシー・エステート・ワイナリー」
にたどり着きます。
ここを前回訪れたのは、もう5年ほど前になります。その時は、ゲートも普通の黒い鉄柵でしたが、今は、
ワイナリー名が彫られたレンガ色のゲートになっています。
その5年前というのは、丁度、ケーヴが完成、ワイナリー施設及びテイスティング・ルームをこれから・・という段階でした。
ですから、今回、その建築途中だったものがどのような姿になっているのかを見るのが、とても楽しみでした。
【理想の施設に】
車を空いているスペースに停めて、歩き出した途端、フロントの景色が一変して見えました。
記憶にない建物が目の前にあると、頭の中が混乱してしまいます。
ワイナリーと、オフィスを含むテイスティング・ルームの建物が隣り合って建っていて、いづれも大変モダンで
スリークなデザイン。
Michael Guthrie & Associatesというグループによるデザインだそうですが、背後にある山々と無理なく
ブレンドするよう、外側はすべて石で覆われ、インテリアは要所要所に温かい木製の家具を配置させています。
テイスティング・ルームの真ん中には、温度調整がしっかりされたタワー・セラーの一角があり、ガラスに覆われた
そのスペースの中には、対面2サイドに、天井まで伸びるワイン・ラック。
そして、ワインが飾りに置かれた小さなテーブル。
とてもお洒落です。
テラスからは、前方にオショーネシー・ワイナリーが所有するテステート・ヴィンヤードが広がり、素晴らしい
景色を楽しめます。
冷・暖の温度調整、時間指定可能の自動パンプオーバーを保持する発酵タンクは、ピッカピカの状態にあります。
発酵タンクを「美しい」と思って見たのは、随分久しぶりのことです。
ミセス・オショーネシーが持っておられる豊かな財源のおかげで、ワインメーカーとしてはほぼ理想に近い、
効率的、近代的、清潔なワイナリーができあがっています。
【マイナーなボルドー品種に挑戦】
現在、オショーネシー・エステート・ワイナリーから出されているワインは、以下の3種。
@ カベルネ・ソーヴィニョン、ハウエル・マウンテン
A カベルネ・ソーヴィニョン、マウント・ヴィーダー
B メルロー、ハウエル・マウンテン
マウンテン・ワインに焦点を絞っておられる点では、大変わかりやすい。ただ、「マウンテン・カベルネ」だからイコール、
フルボディで、どす〜〜んと来る重いワインを期待される方には、不向きかと思います。
このハウエル・マウンテンのフルーツで造られるカベルネは、平均すると、マウンテン・カベルネの中で恐らく一番
どすんと「来ない」カベルネです。つまり、より柔らかく、す〜っと氷上を滑るフィギュア・スケーターのような、
エレガントさがあります。
同じマウンテン・カベルネでも、上記Aのマウント・ヴィーダー地区のフルーツから造られるカベルネは、もっともっと「どすん感」が強い。
例えば、オショーネシーとご近所のLaderaでも、ハウエル・マウンテンとマウント・ヴィーダーの2種カベルネを造っておられますが、
その違いは明らかで、彼らがそれぞれのワインにつけている渾名(ハウエル・マウンテンのカベルネは「シルクハット」、マウント・
ヴィーダーのカベルネは「カウボーイ・テンガロン・ハット」)が、言いえて妙です。
オショーネシーのカベルネも従って、@とAの違いは明白ではありますが、ここの場合、単にアペレーションから来る
フルーツ性質の違いだけによるものではなく、直球か変化球かの違いによるものが大きいと思われます。
たとえが悪くて申し訳ありませんが、つまり、100%カベルネ・ソーヴィニョンのカベルネ(A)と、
各種ボルドー品種ブレンドを含むカベルネ(@)の違いであります。
2004年ハウエル・マウンテン・カベルネは、83%がカベルネ・ソーヴィニョンですが、残り17%の中に実に様々な
ボルドー品種がブレンドされています。メルロー、マルベック、プティ・ヴェルドー、カベルネ・フラン、
このあたりは極々一般的な品種ですが、これ以外に、「Carmenere」「St.
Macaire」がそれぞれ、
1〜2%ブレンドされています。現在のナパ・ヴァレーで、この2品種を育て、ブレンドに使っているワイナリーは、
オショネシーだけではないかと思われます。
いづれも、フランス・ボルドーでは18世紀頃まで盛んに栽培されていた品種で、特にCarmenereは、
プティ・ヴェルドーに近いフルボティな風味と、ものすごく濃い色を出すフルーツとして、昨今、チリで盛んに栽培
されています。
ただし、収穫量がいづれも極端に少ないタイプのフルーツで、収穫時期もゆっくり。Carmenereは通常、
カベルネ・ソーヴィニョンよりも遅い時期の収穫とされており、私が訪れた10月末でも、まだ収穫されていませんでした。
この珍しい2品種の樽試飲(2006)を提供いただきましたが、惚れ惚れとするような濃い〜〜〜色。
ただし、どちらだったか記憶が定かではないのですが、ピーマン臭が顕著なものがあり、風味よりも、色出しに使われている感じです。
この2品種は、いづれも栽培が簡単でない上、収穫量も限られているため、ブレンドするにも数%を越えることは不可能かとは
思いますが、他のカベルネ・ソーヴィニョンと比べて「何かが違う」「複雑味がある」「色が独特」と感じることができたら、
それは、この珍しい2品種が使われているからだと思いたい。
【ワインメーカー、ショーン・キャピオー氏】
この素晴らしい施設を持つオショーネシー・エステート・ワイナリーで、ワインメーカーの仕事をしておられるのが、
ショーン・キャピオー氏。「CAPIAUX」ブランドの、キャピオー氏です。
彼のワインも現在、ここオショーネシーの施設で造られており、ピノ・ノワール専用のセラー・スペースも設けられています。
かって、別の媒体でキャピオー・ワインの紹介記事を書いた時、「ピゾーニ畑のフルーツも、ショーンの手にかかると
エレガントなピノ・ノワールになる」的なことを記したのですが、その感じは今現在もそのまま残っており、
彼の造るピノ・ノワールは、とにかく「アロマティックで、優雅で、きれい」なのです。
その優雅さ、柔らかさが、ボルドー品種によるワインにも繋がっているように思えます。
カベルネ・ソーヴィニョン独特のフルボディさをしっかり基本に保ちながら、「ハーモニアス」なワイン。
CarmenereとSt.Macaireに出会えたことを忘れずに、これからもオショネシーのハウエル・マウンテン・カベルネを見守り、味わって
いきたいと思います。
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