CRUSHPAD
クラッシュパッド
「ワインカントリー日本語ガイド」のサイト、「あれこれ」内シリーズで、2004年秋から翌年秋まで、「好きが高じてワイン造り」
というタイトルのもと、地元日本語新聞で連載したもののコピーを載せてきました。
その当時は04年ヴィンテージのシャルドネを造っていて、05年夏にボトリングしてから、いろいろな方に飲んで頂きました。
ド厚かましくも、公私交えて知り合ったワイナリー関係の方、ワインメーカーさんたちにも受け取ってもらい、飲め飲めと・・。
連載を終えた頃は、丁度、05年ヴィンテージの収穫時期でした。 画像をクリックして、ご覧下さい。
04年に引き続き、マイ・ワインを造ることにしていた05年もの、
今回は、同じ白ワインですが、ヴィオニエという品種のものを手がけることにしておりました。
そしてそれから更に一年、今月4日に、そのヴィオニエがボトリングされました。
ということで、「mon amie」ワイン第2弾完成記念、「クラッシュパッド」のご紹介です。
【マイ・ワインを造るコミュニティ・ワイナリー】
「クラッシュパッド」は、2004年初夏に設立されたコミュニティー・ワイナリーです。
CEOのマイケル・ブリル氏は40代半ば、背の高いナイスガイであります。
IT関連企業のコンサルティングを本業としつつ、自分のガレージでホームワイン・メーキングをしていました。
が、想像できますように、ワイン造りを「ひとりで」やり遂げようとすると、時期によっては1日24時間じゃあ足りないくらい
不眠不休のふらふらな毎日を送ることになります。
本業を放棄することなく、ワイン造りのエッセンスを経験して、マイ・ワインを造ってみたいと願う人は
他にもたくさんいるはずだ、とマイケルは考え、そして「クラッシュパッド」を興すに至りました。
最初の半年〜1年くらいは、本業で生活資金をカバーし、クラッシュパッドからの賃金はなしで
過ごしておりましたが、2年目に入って、ようやく給料を自分に出せるようになり、コンサルティングの仕事は
片付け、クラッシュパッドのCEO職に専念しています。
私がマイケルと初めてお会いしたのは、開業して2ヶ月ほどの2004年10月でした。
時期が時期だけに、もう残っているフルーツはないかなと思ったのですが、9月末の時点で、Pacheco
Vineyardの
シャルドネに余裕があるとのことで、すぐに契約を交わした、その頃です。
一番最初に訪れた時、収穫・発酵作業時だったにも関わらず、クラッシュパッドは比較的のんびりした雰囲気で、
マイケル、当時の専任ワインメーカー、スコット、そしてアシスタント2名ほどが、黙々と作業を施しておられました。
この、いわゆる「立ち上げ」直後のクラッシュパッドでワイン造りをすることができて、
私はラッキーだったなと思っています。
まだ顧客数もそこそこだったため、すべてにおいて「マニュアル・シフト感」があり、ゆったりペースでした。
04年度から05年度にかけて、レベニューが160%もアップしたというだけあって、開業1年たってからの
クラッシュパッドはものすごい勢いで成長してきています。
私のような個人のワイン愛好家はもちろん、ハウスワインの生産を目的としたレストラン、カフェ、バーの関係者、
一般企業の部署単位の参加、ワイン・ショップのオーナーなど、ありとあらゆる方たちが参加してくるようになりました。
で、2006年夏現在、クラッシュパッドには17名程のスタッフがいます。
セールス&マーケティング専門の人、セラー・ワーク専門の人、ラボラトリー専門の人、会計・総務専門の人、と、
今や立派な「企業」です。
が、これだけ大きくなっても、スタッフお一人お一人が極めてフレンドリーで、ワインをこよなく愛する方たち
ばかりなので、「くつろげる」雰囲気はなくなっていません。
「近寄りがたい雰囲気」というものが、ここにはまるでないのです。
【どうやって、マイ・ワインができあがる?】
クラッシュパッドでのマイ・ワイン造りは、以下のようなプロセスを経て行われます。
@品種・ヴィンヤードを選ぶ。
「クラッシュパッド」のウエブサイトに、「Grape
Sources」という項目があり、品種別、ヴィンヤード別の説明がされています。
ここから自分の希望を選択します。
通常、従来顧客には2月頃、一般顧客には3月頃、その年のフルーツが公開されますが、有名=人気ヴィンヤードの
人気バラエタルは、1〜2ヶ月の間に売り切れてしまう場合があります。
Aクラッシュパッドと契約
自分が造りたい品種、ヴィンヤードが決まり、それがAvailableであれば「クラッシュパッド」と契約を
交わします。 購入は、ひと樽がミニマム・ライン。
ひと樽で、およそ23〜25ケース出来上がります。(1ケース12本)
もちろん、ここに至るまでに、一度クラッシュパッドに出向き、施設内ツアーとテイスティングをすることもできます。
というか、そうすることをお薦めします。
どうしようかなあ、どういうワインを造ろうかなあ・・と、曖昧な感じでいたのが、ここに来ると俄然やる気が出て、
考えもクリアになってきます。
Bワインメーカーとプランニング
契約が結ばれると、「The
CRUSHPAD 30」というチャートが送られてきます。
これは、ワイン造りに伴う30の決定事項を並べたもので、これに沿って、ワインメーカーさんと、
ご自分のワインの方向性、 ゴールを設定していきます。
どういうワインが好みなのか、どういうワインを造りたいのか、どういうスタイルを希望するのか、
そのあたりのことが、しっかり自分で把握できていないと、この30の決定事項は、なかなか手強いです。
数ヶ月前に、クラッシュパッドへご案内したご夫妻(日本人)は、もともと「シラー」を造りたいという希望をお持ちでしたが、
クラッシュパッドに来られて、いろいろ試飲された結果、「白ワインの方が良いかも」と思い直され、
その時点でAvailableだった某ヴィンヤードに焦点を当て、そのヴィンヤード単一畑もののシャルドネを、まとめて数本
街のワイン・ショップで購入。
全部、飲み比べてみたそうです。
こういうことができるのも、マイ・ワイン造りの面白さです。
C収穫・そしてワイン造り
収穫日は、そのフルーツを契約した人一人一人に、メールで連絡がいきます。(例年、およそ9月〜10月)
収穫そのものは早朝に行われますが、それに参加されるのも可能。
収穫現場には行かないが、クラッシュパッドでのその後の作業(選別、破砕、圧搾など・・)に参加、
というのも可能。
収穫されて運ばれてくるのが火曜日だが、その週の土曜日にしか行けない・・という人のために、
フルーツを低温保存しておく部屋もあります。
このあとの一連のワインメーキング・プロセスも、ありとあらゆるポイントで参加することが可能ですし、
逆に、モニターとメールでの確認だけに留めておくことも可能。
つまり、サンフランシスコ近辺に住まいがなくても、州外に住んでいても、アメリカ以外の国に住んでいても、
カリフォルニア産の「マイ・ワイン」を造ることができるわけです。
私は、最初のシャルドネの時は、新聞コラム連載のためもありましたが、何回も何回も通い、各プロセスを
自分の目で確かめました。本で読むだけの知識と、実際に目で見てやってみて得られる実感とは
やはり自分の中に吸収される速度と深みが違ってきます。
ワインへの「ありがたみ」というものも、前よりもずっと感じるようになりました。
自分のワインもさることながら、他のワインをちょこちょこテイスティングするのが、本当の楽しみではありましたが。
D二次発酵
白ワインを手がける人にとって、収穫・一次発酵後におけるキーポイントは、二次発酵(ML=
マロラクティック発酵)を させるかどうかではないかと思います。
これについては、「あれこれ・好きが高じてワイン造り」のVol.6をご覧ください。
04年のシャルドネは、MLを施さないことを決め、思っていた通りのワインが出来上がりました。
05年のヴィオニエは、気づいた時にはMLが始まってしまっていたというハプニングがありましたが、
かえってそれが良かったようです。半分くらいMLが進んだところでストップさせようかと思ったのですが、
「もし、このまま自然にMLをさせておいたら、どんな感じになるのだろう」という好奇心を止めることができず、
結果、ML100%ということになりました。
Eラベル・デザイン
何百という件数のワインがボトリングされますので、そのラベル・デザインも担当者は大忙しです。
全く何もアイデアがなく、ゼロからラベル・デザインをしてもらうには、追加でデザイン料がかかります。
多くの方は、会社のロゴ、基本になるイラスト、お気に入りの写真、オリジナル・アートを持っておられ、
それのスキャン、プラス、レイアウトをデザイナーさんに頼んでいます。
予定されているボトリングの時期より半年くらい前までに、このラベル・デザイン作業を終了しておきたいものです。
デザインは、ラベルだけに留まりません。
ラベルの雰囲気に合わせて、ボトルそのものの形、ボトルの色、コルク、キャップシールも選択することができます。
「mon
amie」の場合、母の絵が落ち着いた感じのものだったので、ボトルも透明なものでなく、暗いものにし、
コルクに印刷した「mon amie」の文字が見えるように、キャップシールなし、という形にしています。
これら全て、デザイナーのジェニーさんと相談して決めたことです。
ラベル・デザイン、そしてワインの名前というのは、産みの苦しみと言いますか、なかなか簡単にはいきませんが、
あれこれ考える時間が楽しいのです。
Fボトリング
これも、機械がやってくれますので、本人がいてもいなくても良いのですが、やはり記念すべき最初の1本が
ラベルを身にまとって、ベルトコンベアーを流れて出てくるところは、見ておきたいものです。
昨年は、私も箱詰めをしましたが、今年はクラッシュパッドのスタッフが3名もおられました。
おまけに、「元気ぃ?」と挨拶交わしているうちに、「瓶詰め直前のyour
wine」なぞ言われてグラスを差し出され
「あら、そ〜お?」と私もこれを飲み始めました。
で、彼らの仕事を取ることはやめて、午前のワイン飲みと写真撮影に専念したのでありました。
「クラッシュパッド」のTシャツの背中には、「Warning
! Wine Making is addictive」と書かれてあります。
これは、実に実に、その通りでございます。
一度、そのプロセスに身を置くと、また次、次はこれ、今度はこっち・・・と、いろいろ試してみたくなるのです。
どうでしょう、皆様も「マイ・ワイン」「マイ・グループ・ワイン」の危ない道にハマってみませんか? |