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2007年12月05日

はあ・・・、もう12月ですかあ、と溜息しきりです。
北カリフォルニアでは、12月から2月・3月にかけてが「雨期」になりますが、今週はずばり、そのシーズンに入っている感じです。
ただ、ざ〜ざ〜と降る雨ではなく、にわか雨っぽいものが時々。曇天が続いているだけに、ああもう冬になっているのだなあと実感します。

8月下旬から10月いっぱいにかけて、山梨県からの研修生お二方のための通訳として、ワインカントリー通勤をしていたことは、
当サイトでも書いてきましたが、毎朝5時起きの怒涛の日々が終わって、もう早や1ヶ月以上が過ぎました。
収穫が本番化した10月はともかく、9月はまさに「あっ」という間に過ぎ去り、一体毎日何をやっていたのか、どう過ごしていたのか、
ほとんど記憶が残らないほどの早さでした。

ヴィンヤードに関する研修についての感想は、9月9日の「あれこれ」で書きましたので、今回は、ワイナリー研修における個人的感想を
書き記しておきたいと思います。

【最適の研修先】

今回、ワイン造りの研修先としてお世話になったのは、「Tom Eddy Wines」です。91年ヴィンテージが初リリースの
カベルネとして出ていますが、10年ほど前、この91年カベルネをワインショップで見つけて飲んだことを鮮明に覚えて
おり、ですから、そのワインの造り手とお会いできることがわかって、私はとても嬉しかったのです。

ワイナリー名にもなっているトム・エディさんは、現在、ご自身のワインを造る以外に、コンサルティング・ビジネスもやっておられます。そして、お住まいのカリストガの土地にワイナリー施設を建てるべく、資金調達にもお忙しい。

年間1500ケースという少量生産で、エステート・ヴィンヤードを持っておらず、ワイン製造施設もまだ持っていない、
という状態がどういうことになるかというと、ここ!と見定めたヴィンヤードから葡萄を買う契約を交わし、
Napa Wine Co」や「Laird」のような「カスタム・クラッシュ」施設と契約して、そこで醸造・熟成を行わなければ
ならないということです。

今年の収穫・発酵・プレスまでは、カリストガ「Cuvaison」ワイナリーのカスタム・クラッシュ施設を使っておられました。(Cuvaison自体、長らくここでワインを造っていましたが、数年前にカーネロスに独自の新たな施設を完成させ、今は
そちらで
Cuvaisonワインを造っています)

この環境の中、研修を受ける先として、Tom Eddy Wines(略してTEWとします)が最適だったと思う理由は以下です。

@ 複数のヴィンヤードと契約して葡萄を調達している、そしてコンサルティング業務をやっているため、実に様々な
ヴィンヤードを訪問、 それらを見学ができたこと。

   自社農園を持ち、そこからのフルーツだけでワインを造っているワイナリーだと、そのヴィンヤードしか研修対象に
      なりません。でも、今回はこの環境のおかげで、ナパ郡ならプリチャード・ヒル、オークヴィル、カリストガ、

      アトラス・ピーク、ソノマ郡ナイツ・ヴァレー、
シエラ・フットヒル地区、パソ・ロブレス地区、モンテレー郡、
      メンドシーノ郡・・・と、かなりのバラエティを持った研修となりました。

A カスタム・クラッシュ施設の様子をうかがえたこと。
   クヴェゾンの施設では、大小20軒ほどのワイナリーが作業を行っておりましたが、どこのワイナリーがどこの葡萄を
  使って何を作っているのかを垣間見ることができましたし、ワイン造りの工程上、自分達と違う方法を取っている
  ところがあると、その話を聞きに行けたりして、学ぶ点多し。

   除茎機やら、選定テーブルやら、プレス機やらが何台もあるわけではありませんので、施設側と造り手側の話し
  合いで、 それらを使用するスケジュール設定がきっちり行われなければならず、これもハタで考えるより、
  ずっと大変なプロセスです。

B 摘み手もいろいろだとわかったこと。
   葡萄の収穫そのものを、ワインメーカー自らが行うことはあまりありません。もちろん、いつ収穫するか、
   どのブロックをどう優先して収穫するかなどの指示は、ワインメーカーが出すのですが、実際の摘み作業、
     そしてそれに必要なマンパワーの手配は、大抵の場合、ヴィンヤード・マネージメント会社が取り仕切ります。
   プリチャード・ヒルの高値フルーツを手がけているヴィンヤード・マネージメント会社は、非常に優れた摘み手
     を抱えていて、その摘み方の早さ、無駄のなさは瞠目ものでした。
   早い上に、容器の中に葉っぱがほとんど混ざっていない状態で、このあとのソーティングが非常に楽でした。

   かと思うと、結構時間かかったわりに、容器の中には葉っぱがいっぱい残っていたり、完全にレーズン化
      している房がいくつもそのまま摘まれていたり、の場合もありで、摘み手も実に様々なのだなあと改めて
     実感した次第。

C 清潔第一、見た目も大事であること。
   一連の作業の中で、体力的に大変だったことのひとつが、容器洗浄です。
   収穫時期が近づいてくると、敷地内に放置しておいた容器を、きれいに洗わなければなりません。
   そして収穫が終わったら、また、きれいに洗って置いておかなければなりません。
   単純作業ではありますが、それゆえにこれが結構キツい。

   この作業を含め、ワイン造りに関わるすべての機具、用具、スペースを清潔に保っておくことは大変重要なことで、
     それだけにワイナリーで使われる水の量たるや、すさまじいものがあります。

   ブティック・ワイナリーであるところのTEWでは、葡萄を運ぶ容器や新樽の移動は、自前の牽引トラックで行い
     ますが、収穫があと一週間ほど先となったある日、このトラックの牽引部分をペイントするという仕事が研修生に
     与えられました。
   真っ黒のペイントされているのですが、ひと冬越したトラックには、当然埃がかぶり、見た目が疲れています。
   収穫期に再び、フル稼働してもらわなければなりませんので、ペイントしなおして、黒々と輝かせてあげるわけです。
   「収穫時期前の、空いた時間を利用してやる隙間仕事なんだけどね。」と、トムさんはおっしゃってましたが、
   やり方を研修生に教えたあと、彼がこう言いました。
   「looks good, feel good and taste good」。見た目が良い、気持ちが良い、そして味が良い・・とでも訳しましょうか。
   これは、ワイン造り及びワインそのもの全般において、非常に大切なモットーではないかと思いました。

あちこちのヴィンヤードからのフルーツを収穫、それぞれ発酵させてプレスして、樽に移すまで研修は続きましたが、
サンプリングの時期のフルーツの印象が、一連のプロセスを経ていくたびごとに、徐々に変わっていったり、
変わらなかったり、こういう一喜一憂がずっと続くことを思うと、ワイン造りには終わりがないということを、
ひしひしと感じます。

このほかに、ヴィンヤード・オーナーとワインメーカーの関係、ヴィンヤード・マネージメント会社とワインメーカーの関係、
相互コミュニケーションの様子、ヴィンヤードやワイナリーの実務レベルでは、英語よりスパニッシュを話せた方が
スムースである場合もあること、など、本当にいろいろ学ばせていただきました。

100人ワインメーカーがいたら、100通りのワインメーキングがあるものなのだなということも、大いに実感できました。

そして、これは私個人的な傾向かとは思いますが、ワイン造りに従事し、毎日ワイナリーで一連の作業をしていると、
まったくの楽しみで飲むワインの量が減るということも体験しました。ラボ用データを取りながら、ちょこちょこ試飲したり、
発酵臭、熟成臭の蔓延する中に一日中いると、家に帰り着いたら何よりビール欲しい〜状態に陥るのです。
で、この通訳業務を終えてから1ヶ月が過ぎた最近は、その反動からか、前よりもワイン消費量が増えてしまっているわけで、
これは良かったのか悪かったのか、微妙。

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