Chez Panisse
シェ・パニース
【ノース・バークレーの老舗】 画像をクリックしてご覧下さい。
今でこそ、北バークレーの一角は「グルメ・ゲットー」と呼ばれ、洒落たカフェやレストランが集まった場所となって
いますが、このあたりを、そういうクオリティの高い「食」のエリアにしたのは、「シェ・パニース」の登場によるもの
です。
1971年にオープンした「シェ・パニース」は、生態学的に健全に育てられた食材、オーガニック食材のみを使った
料理を出すことで、その名前を全米に知らしめてきました。「カリフォルニア・キュイジーヌ」の先駆者とも言えます。
オーガニックだの、サステイナブルだの、最近当たり前のように耳にしますが、71年当時はきっと、
そういう材料を入手することも今よりずっと難しかったのではないかと想像されます。
マルセル・パニョル監督の30年代製作三部作「マリウス」「ファニー」「セザー」に出てくる初老の紳士「パニース」を店名にして
エポック・メイキングなレストランを開いたのは、アリス・ウオーターズさんです。
食べ歩きが好きな人で、この女性の名前をご存じない人は、恐らくいないはず。
現在はサバティカルの最中で、お店で腕を振るっておられはしませんが、彼女が築いてきたコンセプトは、代々受け継がれてきて
おり、この店から独立したシェフは、「シェ・パニース出身」という肩書きをセールス・ポイントにすることができます。
【毎晩、一コース】
「シェ・パニース」が独特なレストランである要因のひとつは、そのメニューにあります。
というより、アラカルト・メニューが存在しないということです。毎夜、出されるものはフィックスされたコース1つのみ。
店を訪れる顧客全員が、同じコースを食するのであります。(内容は、毎晩変わります)
月曜日が3コースで50ドル、火曜日〜木曜日が65ドル(4コース)、金曜・土曜が85ドル(4コース)。
これに、8.7%のTAXと、17%のサービス・チャージが加わります。TIPの計算不要ということです。
この店での夕食を希望されていた日本からのお客様にご一緒して、当店を訪れた日は、たまたま
35周年記念でした。35歳のバースデーということで、月曜日だったのですが特別メニューで85ドル。
予約の電話をかけた時、「月曜日だけれど、特別メニューで85ドル++になりますが、よろしいですか?」と
聞かれましたが、50ドル・コースの月曜日をめがけて電話してくるリピーターが多いのだろうな、と思わされました。
大きな目立つ看板のない「シェ・パニース」は、どなたかの家に入っていくかのようなセッティング。
細長く狭い入り口にレセプション・デスク。
そこから2階に上がっていくと「カフェ」で、このカフェでは手頃な料金のアラカルトを楽しむことができます。
「レストラン」は、レセプション・デスクを右奥に入ったスペース。
全部で、50席もあるかどうかといった大きさで、なかなか予約が取れないわけです。
山の中のセカンド・ハウス風のインテリアは、まったく派手派手しくなく、実に心穏やかに、ゆったりとした
気分になります。
35年もの間、ベイエリアに留まらず全米において名声・人気トップの座につき続ける「シェ・パニース」での
ひとときに胸が高鳴ります。
【2006年8月某日、35周年バースデー・メニュー】
★ Hors
d'oeuvre à la provençal, A
glass of bandol rosé ★
プロヴァンス風オードブルは、サラミ三種、ラディッシュ、オリーヴとハーブのブルスケッタ、そしてプチ・トマト。
これに、先日「なんちゃってブログ・こんなもの食べてます飲んでます」でも書いた、ドメーヌ・タンピエのロゼが
アペリティフとして出てきました。
新鮮で良い素材があれば、シンプル&直球なサーヴの仕方が最高なのは言わずもがな。
でも、それらをどう組み合わせて出すかは、そのお店のセンスによるもののはず。
しつこく感じないくらいの微妙〜〜〜な薄さでスライスされたサラミを味わい、シャキっと元気なラディッシュを
齧れば、サラミの濃さもうまい具合に流れます。
ラディッシュは、葉っぱまでモグモグ頂いてしまいました。
そして、プチ・トマトのみずみずしく甘いこと! すっかり食欲に勢いがついてしまいました。
★ Black
mission figs with mint and Crème fraîche ★
夏に採れるいちじくは、季節がかなり短く、ファーマーズ・マーケットでも見かけた時に買わないと
次の週にはもうない、ということもあります。
で、私もここのところ、いちじくを今ぞとばかり食べまくっているのですが、なるほど、こういうふうに食卓に
出せば良いのだなと納得。
大きすぎず、小さすぎることもないサイズの「いちじく」が、お皿の上を蝶々が舞っているかのように散らばり、
プロシュートとミントが添えられています。
下に敷かれたのは、クリーム・フレッシュ。生ハムとメロンの組み合わせより、私はいちじくとの組み合わせの
方が好きだなと、改めて思いました。
★ La
Grande Bouillabaisse ★
本日のメイン・ディッシュは、ブイヤベースでした。
炭火オーブンで焼かれたトマトは皮剥きがされ、同じく炭火で焼かれたホタテは豊かな海の香り。
真ん中に鎮座するは、スティームされたハリバット(おひょう)。
かわいいサイズのハマグリがまわりを縁取り、ザリガニ(クレイフィッシュ)もちょこんと。
このディッシュがテーブルに置かれた途端、ふわ〜〜っと立ち上る香りたるや、「あああああ、幸せ!」と
しみじみ思わせられる、それはそれは素敵なものでした。
ブロスは、ロブスターやエビから取られたものだとのことでしたが、実に実に繊細で美味。
こんなに優しい、心も体も温まるブイヤベースは、「初めて」と言っても大袈裟じゃないほどでした。
★ Mesclun
salad and goat cheeses ★
「メスクルーン」というのは、若い小さなグリーン野菜のミックスのことを言います。
ピチピチ新鮮な野菜に、まったくしつこくない上質のゴート・チーズ。
飲兵衛との食事だったら、私はこの一皿だけのためにワインを注文したと思います。
そして、優に半時間は、このチーズ・プレートで過ごしていたことでしょう。
★ Summer
fruit basket and bonbons Chez Panisse ★
コースのどのディッシュも「適量」で、それが当店の「体に優しい」感じのする大きな要因だと思います。
ワインを何本も開けられるくらい、ド〜ンと出てくるのも、それはそれで美味しければ良いのですが、
このくらいの量が、普通の大人には最適なのではないかと思います。
「シェ・パニース」の顧客年齢層が高いのも、この「適量」によるところが大きいはず。
豪華に豪勢に食事をと期待される方には物足りなく感じられるでしょうし、個性的な芸術的なプレゼン
テーションを期待される方は、そのシンプルさにがっかりされるかもしれません。
でも、「素材が語る」シンプル&ストレートな料理は、豊かな食材に恵まれたカリフォルニアにいることを、
心から感謝する気持ちにさせられる「極み」のプロダクトだと思います。
私達3人は、キッチンから一番近いテーブルに案内されましたが、そのオープン・キッチンの美しさは、
今まで目にしたどこの店のオープン・キッチンとも趣を違える、素晴らしいものでした。
季節の野菜がバスケットに飾られ、よだれが出てきそうなほど美味しそうなパンが並べられています。
食事の前でも終わってからでも、顧客は自由にオープン・キッチンに入って見学することができます。
毎晩、一コースしか出さないためでしょうか、それぞれの担当のシェフが余裕をもって作業されており、
怒号が飛び交うてんやわんやの大忙し状態は、ここではありえない様子。
だから、自由に顧客がキッチンに入っていけるわけで、こちらからの質問にも、とても親切丁寧に答えて
もらえますし、「どいて、どいて、邪魔」という扱いにもなりません。
こちらの方が遠慮して、お邪魔にならないように動きます。
テーブル担当のウエイター、ウエイトレスの皆さんも、プロフェッショナルでフレンドリー。
常に、にこやかです。
季節に従って、その時に採れる新鮮な材料が、丁寧に調理されてテーブルに出てくる。
当たり前のことなのですが、この当たり前さが貴重になっているわけで、それでいてお店側に「老舗だぞ、
人気高いんだぞ」といった「驕った」感じが微塵も感じられないところが、素晴らしいと思うのです。
訪れた日は35周年バースデーだったこともあり、私達の隣のテーブルは、オーナーのアリス・ウォーターズ
さんを囲む集まりで、ラッキーにも御本人と「お誕生日おめでとうございます」「どうもありがとう」の短い会話を
交わすことができました。
時間がたつほどに、「あの時のブロス・・・」「あのトマト・・」といった詳細が思い出され、そうした「余韻」を残す店は
そうそうなく、できることなら、四半期に一度ずつ訪れたいと思うのであります。
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