Ame アメ
【ワインカントリーからシティへ】
サンフランシスコのSOMA(サウス・オブ・マーケット)地区、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)近くに、
古いビルディングがあり、その古い外観をそのまま残し、後ろのスペースに新しく高層ビルを建てて、
セント・レジス・ホテルがオープンしたのは、去年2005年の秋でした。
スターウッド・ホテル・グループの中で、最高級ランクに位置づけされているセント・レジス。
満を持してサンフランシスコに進出、といった感じでした。
そのホテルに、ワインカントリー、セント・ヘレナの人気レストラン「Terra」のオーナー夫妻、シェフHiro
Sone氏と
Lissa Doumaniさんがレストランを開けるというニュースが出た時は、結構な反響でした。
既に、確固たる評判、名声を築きあげられていた「テラ」をそのままに、「都会」であるサンフランシスコ
(ベイエリアの人たちは、ここを「シティ」と呼んだりします)に進出するのは、大きな挑戦だったことと思います。
ベイエリアに住んでいる者にしてみると、シェフ・曽根の料理を、ワインカントリーまでドライブして行かなくても、
シティで堪能できるようになるのは、グッド・ニュースでした。
【大きすぎず、小さすぎず】
レンガ積みの昔からの外壁を残し、ドア及び窓を新しいものに変えたレストランの入り口は、セント・レジス・
ホテルのメインエントランスとは別の通りにあります。
が、中に入ると、ホテルのロビーと直結しており、つまり、レストランの入り口でありながら、ホテルへの通り抜け口
でもあるということです。
入ってすぐの左側は、透明なガラスで覆われたワイン・ラック。日本酒も陳列されています。
レセプション・デスクを左に、視線を右に向けると、「Sashimi-Bar」。7〜8名座れます。
そのサシミ・バーの奥がオープン・キッチン。
オープン・キッチンを中心に、ダイニング・ルームが「L字型」にしつらえられています。
漆黒と行っても良いウッド・フロアーと、窓を覆うカーテン、そして鉄格子ならぬ「木格子」のような衝立。
この三つの要素が、店内をとてもスリーク&モダンなものにしています。
前菜やメイン・ディッシュについては、各種メディア、ブログで多数書かれてありますので、
今回は、「サシミ・バー」で出されるディッシュ、そしてデザートに焦点を当ててご紹介します。
【Sashimi
Bar】
★"Kaisen"
Sashimi Salad ★
$16.50
北海道のホタテ、タスマニアのオーシャン・トラウト、日本からの鯛などが彩り鮮やかに盛られた海鮮サラダ。
イングリッシュ・キューカンバーが敷かれた上に海鮮が乗り、その上に大根、ひじきが置かれ、水菜をそっと、
そしてトップにかつおぶしがふわふわっと。柚子ヴィネグレットで味付け。
回りにポツポツと置かれたイクラがとてもきれい。
水菜は、こちらでも人気のグリーンですが、このシャキシャキ感はやっぱりナイス。
そして、皮つきの鯛のお刺身に感激したのでありました。
★Ceviche★ $14.50
セヴィチェというのは、南米地区の代表的な前菜で、生魚を柑橘系汁でマリネしたものです。
大抵、そのマリネされた魚を細かく切って、ちょっとしたグリーンを添えて出されるのですが、
「Ame」のセヴィチェは、ウオーターメロン・ラディッシュの薄切りで「巻く」というユニークさ。
見た目が実にキュート、かつ美しい。
お皿にほんの少し散らされたシー・ソルト、エディブルなお花もアクセントになっています。
セヴィチェには、砂糖漬けしたハロペニョ・ペッパーが混ぜられていますが、
一口でほおばると、巻かれたラディッシュの味が勝ってしまい、セヴィチェの存在が薄く
なってしまうのが、少々残念といえば残念。
ピリっとした辛味も欲しいな、と思いました。
★
Tataki of Hamachi
★
$17.50
ハマチは、こちらの人が大好きな生魚のひとつです。まぐろとハマチがないと「我慢できない」人が
おられるのです。「Ame」でも、一時、ハマチをメニューから外したことがあったのですが、
そうすると「ハマチはないのか」と必ず聞かれたそうで、またメニューに復活。
微妙な火通し加減で焙ったハマチを、円状に敷き、貝割れ大根をパラパラ。
マウンテン・キャビア(=とんぶり)が周囲を覆って、ホームメイド「ぽん酢」を。
パっと見ただけではわからないのですが、酢漬け・塩漬けされたわさびの葉っぱと茎が
乗っています。これが、口の中で強烈なキックとなり、ハマチの「のったり感」とのコントラストが絶妙。
美味しい、美味しいと、ぱくぱくぱくぱくぱくぱく、6口でたいらげました。
【デザートと、パティシェ】
「Ame」のオープン当時から、デザート部門で従事、現在チーフ・パティシェとして活躍されているのは、
上野欣子(キンコ)さんという日本人女性です。
日本では、デザートではない、普通のディッシュのCookとして「パン・パシフィック・ホテル横浜」などで
働いておられた欣子さん。
カリフォルニア・カルナリー・アカデミー(サンフランシスコ)や、日本のコルドン・ブルーなどで、スイーツの
授業を受けられ、恵比寿の「ミシェル・ロブション」や、サンフランシスコの「ブルバード」、フォーシーズンズ・
ホテル・サンフランシスコ、ホテル・ヴィターレ・・・で、パティシェとして経験を積んでこられました。
「Ame」は、2ヶ月ごとにメニューを変えます。チーフ・パティシェとなった欣子さんの仕事は、従って、
新しいメニューを作り出すこと、試作品を作ること、アシスタントに渡す完璧レシピを整えることに、
大半の時間が取られます。
オーナー・シェフの曽根さん、奥様のリサさんと3人で、ああでもない、こうでもないと、基本のアイデアが練られ、
決められたコンセプトに沿って、欣子さんがそれを具体化していくわけです。
「欣子さんは、まじめで勤勉で繊細。そして、料理全般における知識が豊富なので、引き出しがいっぱいある。
アイデアもぽんぽんと沸いてくるし、大いに頼りにしているんですよ。」
「彼女は昔、服のデザイナーもやっていたので、デッサンもとてもうまい。お皿の上のコーディネーションにセンスが
あるんですよ。一つのお皿の上に、食材を置く、置かない、そのスペースのバランスというものは、
持って生まれたセンスから出てくるもので、これができない人はたくさんいます。彼女は、それができる。」
と、シェフ曽根、大絶賛。
2ヶ月ごとのメニュー・チェンジは、しかし大変なことです。普通に暮らしていても、2ヶ月なんて「あっ」という間に
過ぎていくのですから、その間に新しいものを作り上げていくのは「挑戦」以外の何モノでもありません。
「起きている間は、いつも、常に、その新しいデザートのことを考えているような感じです。」と、欣子さんご自身も
おっしゃってましたが、本当にそうだろうと思います。
★
Mango Coconut Parfait
★ $9.50
マンゴとココナッツ・ジェローの小キューブが、グラスの底に、その上にパイナップルのグラニテが
敷かれ、ラムのサバヨンがかけられています。
この一品がアイデアとして出た時、オーナーのリサさん(彼女がデザート部門のディレクター)の指示は、
「ココナッツを使いたいけど、ココナッツ・ミルクは使いたくない」というものだったそうです。
確かに、ココナッツ・ミルクというのは、少量でも強烈な風味を出し、その濃さ、しつこさを苦手とする人も
おられます。
この指示を受けた欣子さんは、カットされたココナッツの実、水、砂糖をボイルさせて、ココナッツの香りを
水に移し、その水にライム汁を加えて、ジェリーにするというアイデアを発案。
確かにココナッツの味はするけれど、ココナッツ独特のべっとり感がない、すっきりしたジェリーが
できあがりました。むぎゅむぎゅっとした感触、マンゴのしゃきしゃき感触が一緒になって、
食べていて楽しくなるデザートです。
★
Warm Apple Almond Filo Tart ★ $9.50
アップル・パイは、アメリカン・デザートの王道、定番。アイスクリームもそうですが、「なんとかパイ」とか
ベリー類を使ったものがデザート・メニューにないと、こちらの人は不安になるようです。
普通の「街のレストラン」ですと、「グランマが作ったアップルパイ」風の大ぶりスライスに、ど〜んと
アイスクリームが横に盛られて出てきますが、
ハイエンド・レストランになると、こういったセッティングとなります。
まず、アップル「パイ」ではなく、フィロ・ドーを使った「タルト」。
さくさく、ふわふわのフィロ生地は、風味豊かで非常に美味。
アイスクリームも、ヴァニラではなくシナモン。アップルサイダー・シロップがかかります。
私は、このフィロ生地とアイスクリームを交互に頂くだけで、大満足でした。
★
Green Tea "Affogato"★ $9.50
イタリア語で「溺れる」という意味を持つ「アフォガト」は、ジェラートに熱々のエスプレッソがかかったものを
言います。「Ame」版アフォガトは、ピスタチオ・アイスクリームに、熱々の抹茶という組み合わせ。
なるほど〜、です。
「シェフ曽根とも同じ意見だったのですが、ピスタチオと抹茶には何か似通ったテイストがあるんです。」と
欣子さん。ふ〜む、なるほど、確かにそうです。
抹茶をかけるという方法に、ヴァニラ・アイスクリームでは平坦、シナモン・アイスクリームは抹茶と喧嘩しそう、
ベリー系は論外・・・と考えていくと、ピスタチオは最高の相性です。
よくぞ、ピスタチオに行き着いてくださいました、と言いたくなるくらい。
抹茶が入った、この小さな可愛らしい容器。これは、この一品のために新しく買い揃えられたそうです。
トレイ真ん中に置かれたビスコッティは、シェフ曽根氏のリクエストにより、歯が折れそうな従来の堅さではなく、
噛んですっと割れるくらいの柔らかさのものに仕上げられています。
もちろん、このビスコッティにもピスタチオ。
アイスクリームは、イタリアからピスタチオ100%のペーストを取り寄せて使用。
ディナーを食べにこられるお客様の半分以上、おそらく6割くらいが、デザートも注文されるとのこと。
「良いレストランでのお食事」に、デザートは欠かせないものでしょう。
家でも食後に何か食べることをしないし、スイーツそのものにそれほど強い情熱を持っていない私は、
外食しても、デザート用に胃袋のスペースを空けておくといったことはしません。
が、デザート・メニューを見ることだけはします。そして、興味をそそられるものが見つかれば、
急に「別腹」が登場し、ペロっとたいらげてしまう。
「Ame」のデザート・メニューは、別腹登場のメニューでした。
日本と違って、こちら(少なくともサンフランシスコ)は「ケーキ屋さん」というのが少なく、ショッピングの間の
休憩に、ちょっとお茶とケーキを、ということにあまりなりません。
「Ame」自体は、ランチとディナーのみ営業で、その間の時間は開いていないのですが、セント・レジス・ホテル内の
ロビー・バーが、「Ame」の管轄下になっているので、午後2時から5時半の間、そこでランチ・メニューの一部を頂くことができます。
ショッピングの途中、あと、或いは近代美術館に行ったあとなど、セント・レジス・ホテルのロビー・バーに行って、
欣子さんのデザートで一息つく、というスタイル、なかなかよろしいのではないでしょうか。
|