ホーム    日本語ガイド    フード&スポット    ワイナリー紹介   人&ビジネス    あれこれ    コンタクト

                    WHETSTONE WINE CELLARS      ウエットストーン・ワイン・セラーズ

         【ワイナリーの形】

         「ワイナリー」とひとくちに言っても、そのビジネス体系はひとつではありません。

         @ 生産地に自らの畑を持ち、同じ敷地内にワイン造りの施設を持ち、ボトル詰めまで同じ場所で
           行う、いわゆる「純正」エステート型(私の造語です)。ボルドーの「シャトー」のようなもの。
         A ワイン造りの施設は自分のものを所有しているが、そことは別の地域に自家農園を持つ
           ワイナリー(この場合、例えヴィンヤードが自分のものであっても、ラベルに「エステ−ト」と表示
           することはできません。)
         B ワイン造りの施設は持っているが、ぶどうはすべて契約したヴィンヤードから購入している
           ワイナリー。(つまり、自家農園を持たない)
         C 自家農園は所有しているが、ワイナリーを所有せず、そういう施設を借りてワインを造っている
           ワイナリー。(ワイン造りの施設を貸し出しているのが「カスタム・クラッシュ」)
         D 自家農園も、ワイン造りの施設も持たず、カスタム・クラッシュなどの施設を借りて、契約ヴィン
           ヤードから葡萄を購入して、ワインを造っているワイナリー。

         そして、ワイン造りそのものには関わらず、葡萄造りにのみ専念するヴィンヤードのオーナーという
         存在もあります。 更には、年間を通じて畑の管理・ぶどう栽培を請け負う、ヴィンヤード・マネージ
         メント会社という存在もあります。

         ざっと並べただけでも、これだけの異なった環境があるわけですが、今回ご紹介する「ウエットストー
         ン・セラーズ」は、この中で言うと「D」になります。
         厳密に言うと違う部分もあるでしょうが、いわゆるブルゴーニュ地方で言う「ネゴシアン」。

         【育った土地への思いをラベルに】

        「ウエットストーン」のオーナー&ワインメーカーであるJamey Whetsone氏と初対面の挨拶を
         交わし、テーブルに座り、お話を伺おうと姿勢を正した直後、まず最初に彼が口にしたのは、「この
         ロゴ、どう思う?」でした。

         当ワインとの出会いは、「フード&スポット」の「Cyrus」で書いた通りなのですが、やっとこさ
         ウエットストーンのワインを口にすることができた喜びもさることながら、シンプルながら何やら強い
         主張を感じる、このロゴが気に入ってしまいました。そのことをそのまま彼に伝えますと、「うんうん、
         気に入ってもらえた?嬉しいよ、すごく。このロゴは私にとっても、深い思い入れがあるんだ。」と。

         ジェイミーはサウス・キャロライナ出身。サウス・キャロライナってどこでしょう。フロリダ州の上が
         ジョージア州で、その東がサウス・キャロライナです。
         地図を見てみると、この州がいかに「水」に縁の深い土地柄であるかがよくわかります。
         ここ出身のジェイミーも、「海」と「水」に囲まれて育ったわけです。
         海際の「
Dunes」(砂丘のようなもの)に自然に生え、腐食・浸食をものともせず育つ
                    「
Sea Oats」、このイネ科植物を、ロゴのモデルに使いました。
         「コンテンポラリーでありながら、
timelessであるもの」という、ジェイミーの意図が見事に反映されて
         いる、素敵なロゴだと思います。

         
         
【醸造学の学位はありません】

        お母様方の親戚が、サウス・キャロライナ州でレストランを持っていた関係で、ジェイミーも若い頃
                    から夏休みはレストランで働いていました。
         96年、カリフォルニアに移住してきた時も、就いた仕事はナパ・ヴァレー「マスタード・グリル」のマネ
         −ジャーであり、すぐにワイン・バイヤーも兼ねるようになりました。
         食とワインのコンビネーションに、このうえなく魅せられた彼は、ワイン造りの方へ興味が移ります。

         そして98年夏、ジンファンデルで有名な「Turley」で仕事を得たのです。
         最初は、トラクターを操る「セラー・ワーカー」から始め、次第にワイン造りに参画するように
                    なりました。 

         ナパ・ヴァレーという土地は、ワインでひと財産を築く「アメリカン・ドリーム」成就の場としての
                    イメージが強いのですが、意外にもというか、さもありなんというか、かなり「学歴・育ち」重視の
                    土地です。
         カリフォルニア大学デイビス校(
UC DAVIS)の学位を持っていないと、面接すら受けさせて
                    くれないというワイナリーが多いのです。(「多かった」と言うべきかもしれませんが)

         その中にあって「Turley」は、ワインメーカーのEhren Jordan氏が上記大学の学位なし、という、
         当時では稀有な存在だったと言えます。ここから独立していった「
Copain」のWells Gathrie
                    氏、 「
Outpost」のThomas Brown氏、そして「ウエットストーン」のジェイミー、いづれの方も
                    醸造学の学位を持っていないというのは、とても面白い事実だと思います。

         「『great wine comes from vineyard』って言うでしょう?その通りなんだよ。良いワインは
         優れたヴィンヤードから出来上がってくるものであって、学位があるなしは、さして関係ないように
         思うんだけどね。とにかく、『
OJT (on the job training)』の方が、実社会では何倍も重要な
         ことなんだ。」

         その言葉通り、ジェイミーはTurleyで働いていた約6年の間に、ハウエル・マウンテンの32エーカー
         の土地で、葡萄の木を植樹・栽培という「一」からの仕事を学びながらこなし、仕事のあとは夜間
                    学校 で、スパニッシュを勉強してペラペラになり、ヴァレー内の約200エーカーのオーガニック・
                    ヴィンヤードのマネージメントをしてきました。

         【臨機応変にワインメーキング】

        Turley」にいる間、ジェイミーの葡萄栽培における実力は他ワイナリー関係者の目に留まり、
         現在、自分の「ウエットストーン」を手がける傍ら、
Jocelyn, Ristow, Constant, Temple
         といったワイナリーで、「コンサルタント Vigneron(葡萄栽培者)及びワインメーカー」を勤めて
         います。6年ちょっとというのが、長いのか短いのかわかりませんが、ゼロの出発からここまで達した
         なんて、たいしたものだなあと思います。素晴らしい出世ではありませんか。

         現在、ジェイミーは自分のワインを、「Laird」のカスタム・クラッシュ施設で造っています。
         自宅兼オフィスは、ナパ市内、ダウンタウンのすぐ近く。テイスティング&インタビューは、その
                    ホーム・オフィスで行いました。

         テイスティングしたのは以下の3種です。

         Viognier 2004,  Russian River Valley, Catie's Corner Vineyard 
         Pinot Noir 2004, Russian River Valley, Pleasant Hill Vineyard
                    Pinot Noir 2004, Sonoma Coast, Hirsch Vineyard

         このサイトでしつこく書いていますように、私自身のワイン「mon amie」の2005年ハーヴェスト分
         が、この「
Catie's Corner」のヴィオニエで、ジェイミーが造るヴィオニエは、「こんな風なワインになっ
         たら嬉しいのになあ」と思わせられる、素敵なヴィオニエです。

         今年2月にリリースされる予定のヴィオニエは、生産量たったの200ケース。一般に出回るのは
         そのうちの130ケースほどのみです。
         私は培養酵母を注入しましたが、ジェイミーのヴィオニエは「ワイルド・イースト」(野生酵母)。
         認定オーガニック・ファームですので、野生酵母で発酵させるにふさわしいフルーツではあり
                    ますが、発酵時期につきっきりでケアする体制でないと、野生酵母は扱いづらい。

         「発酵期間は、耳と鼻を最大限利かせます。そして、私はデータ取り・データ読みがだ〜〜い好き
         だから、この期間はセラーにこもりっぱなしだよ。」

         ピノ・ノワールもワイルド・イーストで発酵させますが、職人気質に「野生酵母」に執着するわけでは
         ないそうです。
         「ワイルド・イーストでやるけれど、発酵の進み具合があまりに遅いようだったら、培養酵母を注入
         します。このへんはフレキシブルにやります。『ビジネス』ですからね。」と、ウインク。

         「ワイン造りは、その年その年によって学ぶことも多いし、実験を心がけて、より良いものを
                    プロデュースしていくべきだと思います。 だから、今日話したことも、あと数年したら
                    『ああ、そういうことを言ってた時期もあったなあ』なんてことになるかもしれない。」

         とても正直で率直な意見だと思います。人の嗜好、パレットも、環境や年齢に伴って変化していく
         ものだということを、私も忘れてはならないと、改めて思わされました。

         【売ってくれる人を大切に】

        自分でワインを造るということは、それがビジネスである以上、そのワインを「売る」ことも当然必要と
         なります。「ウエットストーン」のワインは、04年ヴィンテージで総生産量が1100ケース、05年は
         1600ケース、06年には1800ケースとなる予定。
         上記のピノ・ノワール、ヴィオニエの他に、もうひとつ別のヴィンヤードのピノ・ノワール、そして新たに
         シラーが06年から加わります。

         それらの大半は、ディストリビューターを通してレストランに卸されます。あと残りは、メイリング・
                    リストに名前を載せている一般消費者に直接販売。ワイン・ショップにはあまり卸さないとの
                    ことで、道理で気をつけて探していても、街の酒屋さんで見かけないわけです。

         「私自身がレストラン出身というせいもあるかもしれませんが、素晴らしい食事と一緒に楽しんで
                    こそ、ワインがより一層活きてくると思ってます。だから、私のワインを気に入ってくれて、
                    ワイン・リストに入れて売ってくれるレストランのソムリエを大事にしていきたい。」と、ジェイミー。

         ベイエリアにおいては、サンフランシスコ、ナパ・カウンティ内の有名どころレストランで、彼の
                    ワインを目にすることができますが、ベイエリア以外ですと、今のところ全米で3〜4軒の
                    レストランのみ。
         その数少ない店の一軒が、ニューヨークの、かの「
Per Se」です。

         ニューヨークでの販路を増やすべく、そしてこれまで彼のワインを売ってくれた人たちへの感謝を
         こめて、2月には、この「
Per Se」に40名のソムリエを招待し、ディナー&テイスティングの集いを
         するそうです。ひええええ、太っ腹。
         「天下の
Per Seだからね。そりゃあ、ものすごい出費だけれど、私からの感謝の気持ちを伝える
         のには こうするのが一番良いと思ったんだ。」

         「Cyrus」で食事をし、ウエットストーンのワインをヴィオニエとピノ・ノワールを注文した時、
         その2本のボトルを見たメートルディーのニック・ペイトン氏の第一声は、「
Thank you !」でした。
         もちろん、「当店から2本もワインを注文いただき、ありがとうございます」のサンキューでもあった
         でしょうが、「ウエットストーンのワインは、私も大好きなので嬉しいですよ。」という言葉があとに
         続いたことを思うと、ジェイミーの「売ってくれる人を大切にしたい」という思いが、ちゃんと届いて
         いるではないか、と、感動したのでありました。

 

 画像をクリックして、ご覧ください。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウエットストーン・ワイン・セラーズ
WHETSTONE WINE CELLARS

住所   P.O.Box 10039, Napa
電話番号   (707) 253-0600
ウエブサイト   www.whetstonewinecellars.com
訪問   訪問及びテイスティングは、「Laird Family Estate」で可能。事前アポイントメント要。
メモ  
 扱っている葡萄のほとんどがソノマ・カウンティにあるので、
 近いうちにあちらの方に移る予定とのこと。
 そこに、自宅兼オフィス、そしてテイスティング・ルームを
 小さいながらも設けてみたいそうです。
 雰囲気的にも (どういう「的」?)、あっちの方が合ってるかもしれません。

 現在、話題になっている「Hirsch Vineyard」は、ものすごく大きな括りで
 言われる「ソノマ・コースト」にありますが、ジェイミー曰く、「水は少ないし、
 霧はすごいし、海風冷たいし、斜面はきついしで、葡萄を育てるには、
 かなり厳しい場所なんだ。でも、だからものすごく濃縮したフルーツが
 できるんだけどね。それにしても、その収穫量たるや、びっくりするくらい
 少ないよ。」とのこと。
 2005年は、ことのほか厳しい収穫だったようで、ヴィンヤード全部で約20トンしか
 できなかったようです。
 20トンということは、おおよそで、1200ケース。
 これを、「Hirsch Vineyard」と明示するワイナリーが取り合うわけですから、
 各ワイナリーからの生産量は・・・・・。

 「ということは、1本あたりの値段が上がる・・んですよね?」と聞くと、
 ジェイミーはタメ息をついて、「その通り。いくらになるんだろうね。」とのこと。
 

                                                                                                                                                        (2005年12月現在)

           back