ラデラ

                夏の朝方の霧で空がどんよりしていても、１時間車を走らせてナパ・ヴァレーに行けば、
                大抵、爽やかな青空が広がっています。
                季節にふさわしく白ワイン中心の日が多い中、久しぶりにカリフォルニアらしい赤、
                その中でも王道のカベルネ・ソーヴィニョンを口にしたくなりました。

【ヒルサイドのフルーツ】 画像をクリックして、ご覧下さい。

                ハイウエイ２９号線と平行して走るシルベラード・トレイル、
                セント・ヘレナとカリストガの中間地点に、ハウエル・マウン
                テン側（東）に入っていく「Deer Park ロード」との交差点が
                あります。
                このディア・パーク・ロードを、ずんずん山中に進み、
                途中の道を北側に入っていくと、ポツンと、ヒストリカルな石畳の建物が見えてきます。
                それが、LADERA。

「LADERA」というのは、スペイン語で「ヒルサイド」

                いう意味があります。
                彼らが所有している２つのヴィンヤードを思い起こすと、
                この名前の由来がまさにピッタリとあてはまってきます。
                ひとつは、マウント・ヴィーダーの斜面にあるLone Canyon
                ヴィンヤード。全部で４５０エーカーの畑ですが、そのうち
                ７５エーカーにしか葡萄が植えられていません。
                あまりに急斜面で、あまりに荒れた土地だからです。

もうひとつは、ワイナリーの周辺にあるLadera's Howell Mountainヴィンヤード。
ここも、１８５エーカーのうち、葡萄が植えられているのは７５エーカーほど。

【ハウエル・マウンテン：ヌーヴォー・メドック⇒シャトー・ウオルトナー⇒ラデラ】

                ハウエル・マウンテン・ヴィンヤードは、１８７７年に二人のフランス人が始めた畑で、
                彼らは、ナパ・ヴァレーではなくハウエル・マウンテンの山中に畑を興した、フロンティア
　　　　　　　の一部でした。当時は、２０エーカーにメドックが植えられていて、その名も「ヌーヴォー・
                メドック・ヴィンヤード」と名づけられていました。

                ２０００年にラデラのオーナー、Pat & Anne Stotesbery夫妻が、この畑を購入された時は、
                「シャトー・ウオルトナー」が所有しており、７５エーカーにシャルドネが植えられていました。
                （シャトー・ウオルトナーのフランシス・ウオルトナーは、仏ラ・ミッション・オー・ブリオンを
                所有していた一族の当主だった人）

                しかし、このシャルドネの木々は既に年老いていて、フィロキセラへの抗体性もなくなって
                いたため、パット＆アンはカベルネ・ソーヴィニョンを中心とした、ボルドー種への植え替えを
                行いました。

ハウエル・マウンテンの畑が、パリを歩く紳士がかぶるシルクハットなら、ローン・キャニオン・
ヴィンヤードは、カウボーイ・テンガロン・ハットです。

                カリフォルニアが、まだメキシコ領土だった頃、ナパ・ソノマ一帯を治めていたヴァレーホ将軍
                からGeorge Yountが譲り受けた土地、その一部がこのヴィンヤードです。
                (因みに、ナパ・ヴァレーの街、ヨントヴィルは、このGeorge Yountから付けられています）

                この土地は１８４７年に、ヨント氏からチャールズ・ホッパーという人に渡り、１８７７年になって
                葡萄が植えられ始めました。１９９７年に、パット＆アン夫妻が畑を購入、それ以来、
                標高約３３０Ｍの険しい斜面のこの土地は、土壌、斜面、標高、マイクロ・クライメートにより
                ２１ブロックに分けられ、カベルネを中心に、野性味あふれる葡萄を生み出しています。

                いかにも歴史を感じさせる石畳のワイナリーは、１８８６年
                Jean Brunと W.J. Chaixという二人のフランス人によって
                建てられました。
                （前記ハウエル・マウンテンのヴィンヤードを開拓した人達）
                近くを流れるアングイン・クリークから運ばれた石で作られ
                た建物は、約７５センチもの厚さの壁を持っています。
                取り付けられている木製のドアも、今では見つけられない
                ほどの重厚さ。

                禁酒法時代を経て、人が離れビジネスが去り、このワイナ
                リーはホッタラカシのゴースト・ワイナリーになってしまっていました。
                それを買い取ったのが、シャトー・ウオルトナーのオーナー、フランシス・ウオルトナー。
                ２０００年に現オーナーのパット＆アン夫妻がここを購入、歴史を抱える重厚な建物を
                今の時代に蘇らせるべく、大改装に取り掛かったのです。

                パンプ・オーバーに要する機械･道具が発達していなか
                った１８８０年代のワイナリーですから、必然的にグラヴィ
                ティ・フロー（重力流動）によるワイン造りが行われており、
                建物もそれ用になっています。　

                余計な空気に触れる機会を最小限にとどめ、葡萄に対し
                限りなくジェントルに接することのできる、グラヴィティ・
                フロー・システムをそのまま継続させながら、一方で、
                最新鋭の破砕マシーンを取り入れたり、タンクもパンプ・
                ダウンできるオープン・トップのものと、パンプ・オーバーを
                施すクローズ・トップのものを使い分けたり、と、今の時代に
                ふさわしい技術とアイデアを取り入れています。

             パット＆アン夫妻の手に渡ってから加わったものの
                ひとつが、１９０００スクエア・フィートもの巨大なケーヴ。
                ワイナリーの一番下の階から、１８８６年当時から残る
                ものを含む、２つの出入り口で繋がっています。

ワイナリーの歴史、ワイン造りのプロセスについてツアー
が進み、テイスティングはこのケーヴの中で行われました。

               シャトー・ウオルトナー、シャルドネ、Napa Valley 2000
                ラデラ、カベルネ・ソーヴィニョン、
                                                    Lone Canyon Vineyard 2000
                ＋
                バレル・テイスティング
                ラデラ、カベルネ・ソーヴィニョン、Howell Mountain 2003

                パット＆アンは、「シャトー・ウオルトナー」の歴史に敬意を
                払い、このブランド名を残しています。　シャルドネ、ピノ・ノワ
                ール、シラーを、このラベルで出す計画でいるそうです。
                白ワイン好きの方には、やはり「シャトー・ウオルトナー」の
                シャルドネは絶対味わっておきたい、知名度の高いワイン
                ですし、マウンテン・レッドの究極の土地であるとされている
                ハウエル・マウンテンで作られるシャルドネとは、一体
                どんなものなのか、とても気になるワインです。

香りは、よく熟した甘い梨が思い浮かぶ、フルーツ・フルーツしたものでありがなら、
その味わいは、とてもクリスプ！　シャキっとした酸味が、程よく上品に風味をひきしめます。

                ２０００年に、このシャルドネの畑をカベルネに植え替え始めましたので、大半を
                このハウエル・マウンテンの畑（Titus Vineyardsという名前でした）からの葡萄で
                造られるシャルドネは、この２０００年ヴィンテージが最後。
                ２００１年のシャルドネは、７４％がカーネロスの葡萄で占められています。

                ２００２年ヴィンテージから、シャトー・ウオルトナーのシャルドネは、ラッシャン・リヴァー
                のリッチー・ヴィンヤード（Ritchie）の葡萄で造られます。
                知る人ぞ知る、人気のヴィンヤード「リッチー」のシャルドネが、一体どういうものに
                なるか、これまた要注目！です。

                まだ眠っていた体が、バシ～～ンとたたき起こされたか
                のような素晴らしいシャルドネのあとは、お待ちかね、
                ラデラのカベルネ・ソーヴィニョンです。
                エレガントにアンさんが開けてくださった、ローン・キャニ
                オン・ヴィンヤードのカベルネ、
                「ああ、懐かしい。カベルネの香りだあ」というのが感想
                でした。

                テイストも、直球ストレート。濃い色は、いかにも野性味あふれるカリフォルニアのカベルネ、
                そのものです。険しい山の斜面で、荒れた土地から育ってきた葡萄、それらが
                「どうだ！これがカベルネだ！」と、胸張って主張しているような、そんなワインでした。素晴らしい！

                バレル（樽出し）テイスティングは、もうひとつの畑、ハウエル・マウンテンからのカベルネ２００３。
                樽の中で２０～２４ヶ月、瓶詰めされてから更に９～１２ヶ月エイジングされますので、それを思うと、
                まだまだ子供の段階です。
                この段階で、どうこう言えるようなプロの舌は持ってませんので、どうこう言いません。
                ちらっと頭に浮かんだのは、「ジョニー・デップがティーン・エイジャーの頃は、どんな顔をしていたの
                だろう」でした。　まるで意味不明。

             要所要所にきれいに花が植えられた、敷地内のガーデニ
                ングは全て、奥様のアンさんの仕事。　モンタナ出身の
                アンさんいわく、「花が咲く時期がほんの一瞬しかないモン
                タナに比べると、ここは別天地です。あれもこれも試したく
                なるし、育て甲斐があります。」とのこと。

                ツアー＆テイスティングを介して、いろいろな人と出会うのも大変楽しいこと、
                と、彼女は静かに微笑んでおられました。
                ワイナリー全体がとても静かで、心が落ち着いていきます。
                １８００年代後半の、この地の歴史に思いを寄せて、ゆったりと過ごすのに最適なワイナリーです。

LADERA ラデラ
住所	150 White Cottage Rd, South, Angwin
電話番号	(707) 965.2445
ウエブサイト	http://www.laderavineyards.com
訪問	ツアー＆テイスティング共に、事前にアポイント要。無料。
メモ	ワイン・メーカーは、Karen Cullerさん。　「Culler Wine」で御馴染み、当サイトでご紹介した「レンテリア」ワインの　ワイン・メーカーでもあります。かなり引っ張りだこの人気ワイン・メーカー　になっておられます。